2022年02月03日

鬼の形相、仏のほほ笑み

東村です。

前回、多和田さんの「NOを教える、NOで教えない」という哲学を紹介した際、著書「犬と話をつけるには」に「人が何を望んでいるかを犬に示し、犬がそれを理解し、納得し、結果に満足するまで繰り返す」ことが大切だと書いておきながら、その後、「なぜ『NO』なのか、何が『YES』なのか、を犬に理解させようとしてはいけません」とも書いてあることをお話ししました。

どういうことなのでしょう?

今回は、そこを私なりの勝手な解釈も含めて書き綴ります。

実は、犬に理解させようとしてはいけない、というくだりの続きにこう書いているんです。「犬にとっての『YES』『NO』は快・不快でしかなく、それは人間が求める善悪の基準とはまったく異なるのですから」

人の行動基準は、主に「損か得か」「好きか嫌いか」「正しいか間違っているか」の3パターンに分かれると言われています。多和田さんは、犬に『NO』と『YES』を思考で理解させる、つまり善悪の基準で理解させるのではなく、情動で理解させる、つまり快か不快の基準で理解させるべきだと考えているのだと思うのです。よく「犬に笑顔で接することが大切」と口にされていましたし、同成書の随所に「犬を褒めなさい、喜ばせなさい」という記述が出てきますので、おそらく私の解釈は当たらずとも遠からず……だと思います。

言うことを聞かない犬に鬼の形相で接するのではなく、心を静めて仏のほほ笑みで接する、つまり、理よりも情を大切に、てことですね。むずかしいですけど大切なことです。

ところで、心理学は、被験者の心の内側、外から見ることのできない内心を対象とした学問です。今や、研究者が被験者を観察してその内心を推測する「内観主義」は否定され、実際に現れた被験者の行動で内心を判断する「行動主義」が半ば常識のような地位を占めています。明確なエビデンスが要求される科学の世界では必然だったのでしょう。

しかし、昨今、科学技術が進歩し、脳内物質の動きや位置、特定部位の活性化を測定することにより内心を判断する脳科学が台頭してきました。犬についても脳内の活性部位を測定することで、思考と情動のどちらが意識の大部分を占めているのか、快と不快どちらの感情が優勢なのか、が高精度で推測できるようになりました(「イヌは何を考えているか グレゴリー・バーンズ 2020」)。

端折って申し上げると、犬は、どうやら、「NO」や「YES」の言葉の意味を理解し、理に従って行動するのではなく、飼い主の情動がスイッチになって行動する、そのようなものだということが最近まとまりつつある結論のようですね。つまり、犬にコマンドを出す時は、情動が添えられてこそ行動につながることを忘れてはならない、というわけです。
外国に行くと、何をしゃべっているのかさっぱりわかりません、私は。そして、その時、そのしゃべっている外国人の表情や声音などでその感情を理解しようと努めます。犬とのコミュニケーションもそれに近いのでしょう。

つまり、「NOを教える」=「NOやYESを理解させる」ためには、乾燥した言葉の意味を覚えさせて理屈で行動させようとするのではなく、笑顔や心地よい声音で快の情動を添えることが必須だ、と多和田さんはおっしゃっているのだと思うのです。

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posted by Wiz.dog Club at 10:45| 思うこと